すずめの戸締まり 感想
すずめの戸締まり、観てきました。
まず、個人的な好き度を先に書くと
君の名は。>>天気の子>>>>>>>すずめの戸締まり
って感じです。
でもこれはキャラデザやRADの曲のテイストや物語のテーマなどなど、個人の趣味嗜好が反映されたものなので、本当に「個人的な好き度」でしかない。
話の内容や展開、結末はどちらかというと天気の子寄りです。というかテーマを豪雨から地震に変えただけでおおまかな流れはほぼほぼ天気の子と同じ感じです。もちろん細部は違うけど。
以降ネタバレ満載。
批判というほどではないけど物語の展開への文句が多いです。ご注意。
あと、ダイジンについての考察というか物語的な扱いについても思ったことを少し。
・視聴者置いてけぼり
すずめと草太さんの出会いは予告の通りなんですが、その後のすずめの行動が意味不明。
「どこかで会ったことがある?」って話は後半に伏線回収されるけど、別にそこで草太さんと何かあったわけでもなく、ちょっと説得力に欠ける感じ……。
進行の都合なのはわかるけどすずめの理解度が異常に早くて行動力もあって(君の名は。の三葉と瀧くんくらい動揺や混乱や試行錯誤タイムがあればなぁ)、どうしてそこまですずめが草太さんの事情に首を突っ込むのかの動機が薄い。
ボーイミーツガールのありがち展開なのはわかるけど、手当てをするのもちょっと強引。すずめがいつ草太さんを好きになったのかもわからないし。天気の子くらい一緒に過ごす時間が長くて二人が楽しそうにしてて距離が近づく描写があればなぁ。
要は草太さんの顔が良かったから成立しただけ???ってなる。まあ2人が一緒に過ごしてる時間の9割以上が草太さんは椅子なんだけど。
すずめが泣いて迫真的に「草太さんがいない世界が怖い」って言うほど彼を好きになるような場面あったか……?ってきもち。
・事前情報で聞いてたほど旅はしない
auのCMとか、トレーラーの情報とか、公式のあらすじとかで、「九州に住むすずめが厄災を止めるために全国を旅する」って聞いてた。
各地でいろんな人と出会い、触れ合い、別れるという描写をすごく楽しみにしてた。……んだけど、実際に描かれたのは愛媛の女子高生と神戸のスナックのママだけ。
愛媛のあの田舎道で運よく通りかかった車が運よく声をかけてくれて運よく神戸に帰る途中だったってのもご都合主義がすごい。神戸行きの車に乗るならせめて香川か徳島にしてほしかった。それか何回かヒッチハイクで乗り継ぎ乗り継ぎにしてほしかった。そういう「いろんな人との出会い」を楽しみにしてたから、呆気なさすぎた。
ところでこれはまったく関係ないけど愛媛のフェリー乗り場が八幡浜港だったのはちょっとテンション上がった。行ったことある。
・東京上空について
丸の内線のトンネルからミミズが出てくるシーンはなかなかに迫力があって、うおーーーこれどうすんのーーー?っていう、終末感というか、絶望感?映画ならではの臨場感もあったんだけど。
序盤からずっと草太さんが危ない危ない言うわりにはすずめはあまりあれを怖がらないし、なんならミミズの上に乗って走れるんかーーーいwwwっていう。
なんかさぁ……触れたら穢れるとか……そういうやつだと思うじゃん……?もののけ姫のタタリ神みたいに触ると侵食するとか、ゼルダの怨念みたいに触れたらダメージ喰らうとか、最近のネタで言うとスプラ3のケバインクみたいに触れたらイカじゃなくなるとか………!!!!
確かにミミズは恐怖を煽る見た目してるし、あれが地震を起こす恐ろしい対象であることは理解できるんだけど、ミミズがトンネルから湧き出てくる光景を目の当たりにしたときのすずめ(視聴者)の「扉があるのはあの奥!?そんな………どうやって行けば………」という圧倒的な絶望に対して、「いやミミズに触れても大丈夫ならそこまで絶望でもないやん」って……なったよね……。
ミミズに触れても大丈夫なら草太さんは何をそんなに危ないと連呼したのか…。
大体、ダイジンをとっ捕まえて「扉を閉めろ!!」って、要石にそれを訴えるだけで閉めれるものなのか????って感じだったし。
草太さんに関しては、ほんと申し訳ないけど、全体的にダイジンだけを悪者にして自分は正義を振りかざしてる印象を受けた。最後の最後まで自分が要石になりかけてることに気付かなかった鈍感さも、うーんって感じ。
で、草太さんが要石になってすずめが自らの手によって封印する場面。
ここは良かった。というか、ここがクライマックス。
個人的に、ここで終わってれば天気の子を超えてたかもしれない。
草太さんを助けたい、でも東京の人たちが死ぬ、という窮地に立たされて、すずめの葛藤もよく伝わってきたし、ダイジンの悪魔的な怖さも良かったし、緊迫感もあって、すずめの決断の苦しさの表現も良くて、とにかくすごく良かった。
ここで終わってれば本当に良かった。(2度言う)
批判を恐れずに言うと、ここから先のドライブや常世の話は蛇足だなと感じました。
いや、常世での「あの日、たくさんの『行ってきます』があって、そのまま時が止まってる」みたいな描写はグッとくるものがあったけどね。
でも、その感動は、この映画そのものへの感動じゃない。当時の震災に想いを馳せていることによる感動。「すずめと草太さんの物語」としての感動じゃない。
物語の感想として考えるならさ、つまるところ、3.11が起きてしまったのは、12年前にも扉が開いて、当時の閉じ師はミミズを抑えることができなかったんだよね。
であれば、閉じ師の草太さんが犠牲になるのは贖罪として理にかなってると思うんだよね。
少なくとも、草太さんが要石になること自体は、一度は受け入れたその役割をダイジンになすりつけるほど不合理な理由じゃないと思うの。
だってダイジンも人間だったわけだよね。しかも幼い子供の人間。
草太さん→しゃべる椅子→要石だから、要石←しゃべるねこ←人間ってわけで。ねこを要石にしたから喋れるようになったわけではない。彼は人間だった。
草太さんが要石になったときの凍りつく感じや孤独な感じを、子供のダイジンも何百年と続けてきた。
そりゃ外に出れて嬉しいし、解放してくれたすずめと一緒にいたいだろうよ。
そういう過酷で残酷な役割を、だれかが負わなきゃいけないってなったとき、すずめが苦しい想いに耐えながらも「母親、環さん、草太さんに守られて、愛されて、この世界で、この日常を噛み締めて幸せに生きてる」という物語だったら、スタンディングオベーションだったよ。
結局ドライブ以降の蛇足の部分で描かれていたのは、
すずめがわがまま言っていろんな人に迷惑かけながら東北まで行って、すずめのわがままで草太の代わりに幼い子供に犠牲の役割を負わせた。
って話じゃん。
すずめは当初自分が要石になろうとしてたけど、そんなことしたら今度は草太さんがまたすずめを救おうとするでしょ。根本的解決になってないよ。冷静になってよ。って思いながら観てた。
そんな後先考えずの行動の結果封印を解いちゃって、危機を起こして、ダイジンが空気読んでくれた。
草太さんが無事でよかった…!!って自分だけハッピーになってるんじゃないよ。
天気の子も同じような選択を迫られてひなを選んだけど、あれはただ別れを延長しただけ。「ひな1人を犠牲にするか、自分もひなも含めた全員で滅ぶか」という選択で全員犠牲の道を選んだだけ。
そこまでの動線で二人が惹かれ合う描写がちゃんとあったし、天候がテーマなのも個人的嗜好にハマってた。
だから展開に不満はないし、個人的に評価高い。
君の名は。だとそこまで壮大じゃなくて、瀧くんがどれだけ頑張っても糸守消滅は免れない。糸守の人々の避難が早まっただけ。だれも犠牲になってないから、話としてすごく良かったし、感情移入もできたし、ストーリーとしても違和感なく観られたし、感動もできたし、最後に出会えた二人を心から祝福できた。
まあそんな感じで、
だからすずめと草太さんの関係も終始冷ややかな目で観てたし、草太さんのことは最後まで好きになれなかったし、感情移入もあまりできず……って感じでした。
「震災を忘れないための映画」としてなら評価は高いと思う。
「すずめと草太さんの物語」として見ると、うーん、って感想です。